世界9市場で事業を展開するOutlandishに聞く「海外市場での日本ブランドの可能性」 ― 前編 ―

TikTok Shopはコンテンツとの出会いをきっかけに商品を発見し、認知から購買までがシームレスにつながる新しい購買体験「ディスカバリーEコマース」として存在感を高めています。こうした変化の中で、海外市場への展開を検討する日本ブランドにとっても、新たな成長機会が生まれています。
今回は、米国からOutlandish 創業者 兼 CEO William August(ウィリアム・オーガスト)氏を迎え、TikTok for Business JapanのJason Chang(ジェイソン・チョウ)とともに、コマース市場の最新動向や、日本ブランドが持つ可能性について語っていただきました。
前編では、9つの市場でコマース領域を支援するOutlandishの取り組み、日本ブランドが評価される理由、そして韓国発ビューティーブランドの成功事例を通じて、海外市場における新たな成長機会や、TikTokを活用した需要創出の可能性について紹介します。
🔵TikTok for Business Jason(以下、Jason):Outlandishの事業内容について教えてください。また、ブランドの海外成長を支援する上での強みについてもお聞かせください。
🟢Outlandish William氏(以下、William):Outlandishは、コマース領域に特化したフルサービスエージェンシーです。
現在は米国、英国、日本、韓国、メキシコ、ブラジルに加え、EU市場にも展開しています。単一のパートナーとして複数市場を横断的に支援できる体制も、Outlandishの特徴の一つです。
私たちの事業は、コマース運営、クリエイター施策、コンテンツ戦略、広告運用、LIVE配信、オフラインイベントの6つの柱で成り立っており、これらの施策が連動することで、初めて成果につながると考えています。
その中でも、成長のエンジンとなっているのが、アフィリエイトを中心としたクリエイター施策です。私たちが支援するUS TikTok Shopのブランドでは、売上の60〜70%がクリエイター経由で生まれており、現在、15,000人以上のクリエイターと継続的にコミュニケーションを行っています。
さらに、世界各地でオフラインイベント「Social Commerce Festival」を開催し、クリエイターとブランドをリアルの場でつないでいます。直近の「Social Commerce Festival Miami」では、3,000人を超えるクリエイターと50以上のブランドが参加しました。
このように、オンライン・オフラインの両方を通じて、長期的なクリエイターとの関係構築を行っています。高い成果を生み出しているクリエイターほど多くのブランドから声がかかるため、最終的には人と人との信頼関係が重要になります。特にAI活用が進む時代だからこそ、ブランドとクリエイター、クリエイター同士が直接つながる機会には大きな価値があると考えています。
私たちがこれまで多くのブランドを支援する中で感じているのは、TikTok Shopでは施策同士の連携が非常に重要だということです。“分断”こそが、TikTok Shopでブランドが失敗する最大の要因です。
Shop運営、クリエイター施策、広告運用、LIVE配信などが、それぞれ異なるデータや方針で動いていては成果につながりません。TikTok Shopは、単に商品を出品すれば売れるプラットフォームではなく、それらが連動して初めて、大きな成長につながります。
Outlandishの強みは、すべての施策を一体化して支援できることです。
🔵Jason:日本では、MCNや事務所を通じてクリエイターと連携するケースが一般的ですが、米国では個人で活動するクリエイターが多く存在します。そのため、どれだけ多くのクリエイターと信頼関係を構築できているかが重要になります。
Outlandishは、オフラインイベントや日常的なコミュニケーションを通じて、クリエイターとのネットワークを継続的に構築しています。こうした関係性があるからこそ、新しいブランドの案件に対しても、適切なクリエイターと素早く連携できる点が大きな強みだと思います。
William August(ウィリアム・オーガスト)
Outlandish 創業者 兼 CEO
TikTok Shopの立ち上げ初期段階から米国・英国市場で事業を展開。現在は、事業全体の戦略方針の策定やグローバル展開の推進に加え、大手ブランドパートナーと連携しながら、TikTok Shopを活用した成長戦略の支援に取り組んでいる。
🔵Jason:これまで数多くのアジアブランドの海外展開を支援されてきたと思います。日本ブランドを含むアジアブランドが海外市場でユーザーとの接点を広げ、事業を成長させていく上で、Outlandishはどのような支援を提供されていますか。
🟢William:Outlandishでは、アジアブランドの海外展開を、市場参入の初期段階から一気通貫で支援しています。
具体的には、市場参入に向けた準備支援、販売事業者代行サービス、物流体制の構築、カスタマーサポート基盤の整備などです。
私たちは、アジアブランドの海外展開において、まず米国市場への進出を推奨しています。商品ページについては、米国のユーザーが実際にどのようなキーワードで検索するかを踏まえて設計し、価格設定も米国市場に合わせて最適化しています。また、クリエイティブについても、TikTokに適したフォーマットに合わせて制作しています。
Outlandishはこれまで、数多くのアジアブランドの海外展開を支援してきました。その際、私たちが重視しているのは、「その商品がなぜ特別なのか」を明確に伝えることです。
「なぜその商品が自国市場で高く評価されているのか」「なぜ海外の消費者にも体験してもらう価値があるのか」を、きちんと言語化することが重要だと考えています。
こうした背景やストーリーを持つ商品には、“新しさ”があり、“発見性”があり、“試してみたくなる魅力”があります。だからこそ、ディスカバリーEコマースと非常に相性が良いのです。
そして、その価値を、Outlandishが持つクリエイターネットワークを通じて届けることで、成果へとつなげています。これまで私たちは、アジアブランドの海外市場展開において、累計1億ドル以上のGMVを創出してきました。
🔵Jason:Outlandishがまず米国市場への進出を重視する理由は、米国は購買力が高く、TikTok Shop市場としても成熟しているため、商品やクリエイティブの検証を行いやすい市場だからですよね。
また、米国ではTikTokの月間アクティブユーザー数(MAU)が2億人を超えており、他国と比較しても大規模なユーザー基盤にリーチできる点も魅力です。まず米国市場で成功モデルを構築し、その後に他市場へ展開していくアプローチは、多くのブランドにとって合理的な選択肢の一つだと思います。
🔵Jason:米国では、「TikTokで商品を発見し、そのまま購入する」という購買体験が広がっています。実際に現場で見ていて、どのような変化を感じていますか。また、特に成長しているカテゴリや消費者トレンドがあれば教えてください。
🟢William:米国では、TikTok Shopを取り巻く環境が、非常に速いスピードで進化しています。
TikTok Shopは2023年に米国市場でスタートし、急速な成長を遂げてきました。ここまでのスピードで存在感を高めたコマースプラットフォームは、ほとんど例がないと思います。
特に印象的なのが、その背景にある消費者行動やカルチャーの変化です。
TikTok Shopは当初、地域密着型の小規模ビジネスによる出店が中心でした。しかし現在では、ブランドや販売事業者の裾野が大きく広がり、多様なカテゴリの商品が流通するようになっています。
「TikTok made me buy it(TikTok売れ)」という言葉に象徴されるように、TikTokで商品を発見し、比較検討し、購入する行動は、すでに多くのユーザーの間で定着してきていると感じています。
その結果、市場の関心は「TikTokで本当にモノが売れるのか」から、「どのブランドが選ばれるのか」へと移っています。
私たちは、そうした多くの事例に関わってきました。2024年当初は小規模だったブランドが、現在ではカテゴリを代表する存在へと成長しています。
特に伸びているのは、スキンケア、ビューティー、ヘルスケア、ファッションの領域です。実際に、こうしたカテゴリではTikTok Shopを起点に急成長するブランドが次々と生まれています。
さらに重要なのは、成長がTikTok Shop内のGMVだけに留まっていないことです。
TikTokで話題化した商品は、米国市場全体で認知が拡大し、オンライン・オフラインの両方でブランドの存在感を高めています。
実際、TikTokでバズった商品が、その数カ月後にはTikTok以外のECプラットフォームの検索トレンドに現れたり、大手小売店での取り扱いが拡大したりするケースも珍しくありません。
こうしたハロー効果(他チャネルへの波及効果)こそが、TikTokならではの価値の一つだと考えています。
🔵Jason:日本ブランドにとって、海外市場のユーザーにリーチし、新たな需要を獲得することには、どのような意義があるとお考えですか。特に米国市場は、日本ブランドにとってどのような成長機会を持つ市場なのでしょうか。
🟢William:日本ブランドは、海外市場において非常に高い評価をすでに獲得しています。
一方で、その評価をディスカバリーEコマースの文脈で十分に活かせているブランドは、まだ多くありません。だからこそ今、日本ブランドにとって大きな成長機会が残されていると考えています。
ただし、その機会が永遠に続くわけではありません。
米国ではディスカバリーEコマース市場が急速に拡大しており、TikTok Shopも力強い成長を続けています。
そして、私たち自身も現場で強く実感しているのは、米国の消費者がアジア発の商品に対して高い関心を持っているということです。
特に、「まだ広く知られてはいないが、自国市場で高い評価を得ている商品」や「品質が高く、新しさがある商品」への需要が高まっています。
これは、まさに多くの日本ブランドが持つ特徴と重なっています。
これまで日本ブランドが米国市場でシェアを獲得するには、小売店への導入や流通網の構築など、多くの時間と投資が必要でした。しかし今は、TikTokを活用することで、米国ではまだ認知されていないブランドでも、消費者との接点を作りながら成長できる可能性があります。
さらに、TikTok上でブランド認知を獲得することは、他社ECプラットフォーム、自社ECサイト、小売パートナーなど、チャネル全体の売上にもハロー効果を生みます。
現在のTikTokは効率的にリーチしながら、新たな需要を生み出せる極めて大きな成長機会だと考えています。
🔵Jason:そうした成長機会がある中で、特にビューティー、ウェルネス、生活雑貨といったカテゴリにおいて、日本ブランドはどのような強みを持っていると感じますか。
🟢William:米国の消費者は、日本ブランドに対して、主に3つの価値を感じています。
それは、「研究開発力に裏打ちされた品質の高さ」「原料や成分へのこだわり」「ミニマルで洗練された美意識」です。
現在の米国市場では、過度なマーケティング訴求に対する警戒感が高まっています。そうした中で、「Made in Japan」という言葉自体が“信頼”の象徴として受け止められています。これは非常に大きな強みであり、今の市場ではむしろ希少な価値になっています。
特にビューティー領域では、日本の代表的なブランドによって、スキンケアに対する“高品質”や“サイエンス”のイメージはすでに形成されています。J-Beautyは、まだK-Beautyほど大きなムーブメントにはなっていませんが、その可能性は十分にあると考えています。
また、ウェルネス領域では、日本は「長寿」「発酵文化」「抹茶」「機能性食品」といったイメージと結びついています。これは、現在TikTokユーザーが関心を寄せているテーマと非常に親和性が高いと感じています。
さらに、生活雑貨や日用品関連の商品についても、日本製品は“高品質でありながら実用的”という評価を得ています。
商品カテゴリだけでなく、日本はゲーム、映画、アニメといったエンターテインメント領域でも非常に強い存在感を放っています。
日本にはもともと世界中の人を惹きつけるコンテンツやストーリーを生み出す力がある一方で、その価値が十分にビジネス機会へと結びついていないケースも多いと感じています。
そして日本ブランドには、言葉で説明しなくても実際に使っている様子を見せることで、魅力が伝わりやすい商品が多いため、TikTokとの相性が良いと思います。
つまり、ブランドそのものを変える必要はなく、“コンテンツとしての見せ方”を変えることが重要なのです。
日本ブランドからは、「控えめな表現が海外では伝わりづらいのではないか」と心配する声が聞かれることがあります。しかし、私たちの経験では、適切なコンテンツ制作や演出を行えば、その魅力は十分に伝わると感じています。
🔵Jason:日本ブランドには大きな可能性がある一方で、その価値を海外のユーザーに伝え、選ばれるブランドになっていくことも重要だと思います。
日本ブランドが海外市場で認知を広げ、需要を創出していく上で、広告投資はなぜ重要なのでしょうか。また、その文脈において、TikTok Shopを活用したコマース体験は、どのような役割を果たしうるとお考えですか。
🟢William:広告投資を考える上で、まず理解しておくべきことがあります。
それは、認知形成を目的としたクリエイター施策と、売上につなげるためのアフィリエイト施策は役割が異なるということです。しかし、多くのブランドは、この2つを同じものとして捉えてしまっています。
そのため、クリエイターとの契約や従来型の広告施策には多くの予算を投下する一方で、“ソーシャルプルーフ(第三者による信頼形成)”にはほとんど投資しないということが起こっています。
店舗をオープンして広告は大量に出しているのに、レビューや口コミをまったく気にしないようなものです。現在、多くのブランドに、このギャップが存在しています。
私たちは、TikTok Shopの本質は、“大規模に設計されたソーシャルプルーフ”にあると考えています。
例えるなら、ユーザーに合わせて最適なメッセージを届ける“スマートビルボード”です。
従来の屋外広告は、すべての人に同じメッセージを表示します。一方で、TikTok Shopはレコメンドシステムによって最適化されており、数千本規模のアフィリエイト動画やLIVE配信の中から、そのユーザーに最適なコンテンツを表示します。つまり、ユーザーが「初めてそのカテゴリに触れている段階」なのか、「数週間比較検討を続けている段階」なのかによって、表示されるクリエイター、商品の見せ方、メッセージが変わるのです。
その“スマートビルボード”を機能させるため、私たちは毎月数千本規模のコンテンツが生まれるエコシステムを構築しています。そこでは、実際のユーザーやクリエイターによって「なぜこの商品を気に入っているのか」「なぜ他の人にもおすすめしたいのか」が語られるコンテンツが数多く生み出されています。商品リンクも設置されており、視聴から購入までがシームレスにつながっています。
ただし、アフィリエイト施策だけでは十分ではありません。
商品購入につながるコンテンツを増やすことはできますが、新たなユーザーへ広く認知を拡大するには限界があるからです。だからこそ、広告投資が重要になります。
広告は、レコメンドシステムによる最適化を後押しし、生み出されたコンテンツを最大限活かしながら、ユーザーを認知から比較検討、そして購買へとファネル全体で押し上げていく役割を果たします。
そしてTikTok Shopの最大の特徴は、その一連の体験が1つのアプリ内で完結することです。認知から比較検討、購買までがシームレスにつながっている点こそが、他のマーケティングチャネルとの大きな違いだと考えています。
🔵Jason:そうした考え方が、実際のブランド成長にどのようにつながるのかも気になります。ある韓国発のビューティーブランドは、米国市場においてどのようにユーザー獲得と需要創出を進め、成果につなげたのでしょうか。
🟢William:この韓国発のビューティーブランドは、アジアブランドがTikTok Shopを主要な販売チャネルとして本格活用することで、どれほど大きな成果を生み出せるかを示す、非常に象徴的な事例です。
実際に、約3カ月間の集中的な施策期間において、US TikTok Shop全体で二桁億円規模のGMVを創出しました。さらに、US TikTok Shopにおけるビューティーカテゴリでトップポジションを維持する成果にもつながっています。
これは、米国ブランドと比較しても非常に大きな成果です。しかも当時は、米国での認知がまだ十分ではなかった韓国ブランドでした。その点を踏まえても、非常にインパクトのある事例だと考えています。
成功要因としては、大きく3つのポイントがありました。
まず1つ目は、「ヒーローSKU(主力商品への集中)」です。
このブランドは、最初から全商品を展開するのではなく、TikTok上で短時間でも魅力が伝わりやすい商品に絞って展開しました。具体的には、15秒程度の動画でも魅力や使用感が伝わる商品に集中し、その商品に対してコンテンツ制作、クリエイター施策、広告投資を集中的に行いました。商品ラインナップの拡張は、その後のフェーズで進めています。
2つ目は、積極的なクリエイター施策です。
ピーク時には、数千人規模の米国のクリエイターが毎週このブランド関連のコンテンツを制作していました。そして、そのうち上位20%のクリエイターが、全体売上の約80%を生み出しました。これは、Outlandishがこれまで支援してきたブランドでも共通して見られる傾向です。
3つ目は、成果の出たコンテンツへのGMV Maxの活用です。
このブランドでは、すべてのクリエイターコンテンツをトラッキングし、成果が良かったものに対してGMV Maxを活用した広告配信を迅速に行いました。
🔵Jason:3つ目のGMV Maxについて補足します。GMV Maxは、AIを活用して大量のクリエイティブとオーディエンスを自動的に最適化できるソリューションです。TikTok Shopでは、数千〜数万本規模のクリエイターコンテンツが生まれることも珍しくありません。従来は、それらを一つひとつ検証しながら広告運用を行う必要がありました。
GMV Maxを活用すると、どのコンテンツを、どのユーザーに届ければ成果につながるのかを大規模に検証しながら運用できるため、従来の手動運用では難しかった規模でPDCAを回すことができます。特に米国市場のようにユーザー数が多く、コンテンツ量も膨大な環境では、その効果がより発揮されると考えています。
Jason Chang(ジェイソン・チョウ)
TikTok for Business Japan, Head of Vertical- SMB & Cross Border
SMB(中小企業)およびクロスボーダービジネス領域を担当。日本企業を含むアジアブランドの海外市場展開や、TikTokを活用した越境マーケティングの支援に携わっている。
ここまで、米国ソーシャルコマース市場の成長や、日本ブランドが持つ可能性、そして韓国発ビューティーブランドの成功事例について、William氏に伺いました。
後編では、日本ブランドが海外市場で成果を生み出すための成長プロセスや戦略設計、各施策をどのように連動させながら成果につなげていくのかについて、さらに掘り下げていきます。