世界9市場で事業を展開するOutlandishに聞く「海外市場での日本ブランドの可能性」 ― 後編 ―

米国市場におけるディスカバリーEコマースの成長や、日本ブランドが持つ可能性について伺った前編に続き、後編では、日本ブランドが海外市場で成果を生み出すための成長戦略や設計の考え方について掘り下げます。
企業が直面しやすい課題や成長プロセス、初期フェーズで重視すべきポイントに加え、オペレーション、クリエイター、コンテンツ、広告をどのような順序で組み立て、連動させながら成果につなげていくのかについて伺いました。
🔵TikTok for Business Jason(以下、Jason):前編では、日本ブランドにとって米国市場に大きな成長機会があることを伺いました。一方で、実際に海外市場への展開を進めるには、多くの企業がさまざまな壁に直面すると思います。日本ブランドが海外市場で成長していく上で、特にどのような課題に直面しやすいのでしょうか。
🟢Outlandish William氏(以下、William):日本ブランドが海外市場で成長を目指す際、共通して直面しやすい課題は大きく5つあると考えています。
まず1つ目は、「オペレーション体制の整備」です。
米国法人の設立、物流体制、現地でのコンプライアンス対応、現地運営チームなど、基盤となるオペレーションが整っていない状態では、どれだけ認知拡大に投資しても、成果につながりにくくなります。
2つ目は、「ローカライズ」です。
ブランドそのものを変える必要はありませんが、米国の消費者向けに最適化する必要があります。この部分では、米国市場を理解しているパートナー選びが非常に重要です。戦略設計を誤ると、ブランドの魅力が伝わらないまま終わってしまうケースもあります。一方で、適切に設計できれば、日本ブランド特有の美意識や世界観は、むしろ差別化要素として強く機能します。
3つ目は、「投資規模」と「時間軸」に対する理解です。
日本ブランドは、認知形成に必要な投資量を過小評価してしまう傾向があります。私たちの経験上、現在の米国市場では、ユーザーが購入に至るまでに平均11回程度のタッチポイントが必要になると考えています。
しかも重要なのは、“どのような接点を積み重ねるか”です。
適切なクリエイティブ、アフィリエイト施策、クリエイター活用、LIVE配信、広告戦略を組み合わせながら、レコメンドシステムを学習させていかなければなりません。
実際に成果につながりやすいパターンとしては、最初の2〜3カ月を「基盤構築とシーディングへの投資期間」として捉えることです。そして、クリエイターコンテンツが積み上がり始める4〜6カ月目あたりから、大きな成長が起こりやすくなります。
そのため、1カ月目のGMVだけを見て撤退を判断してしまうブランドは、TikTokのレコメンドシステムの特性を十分に理解できていないケースが多いと感じています。
4つ目は、「クリエイター選定」です。
多くのブランドは、フォロワー数の多い有名クリエイターを優先しがちですが、実際のデータを見ると、成果を生み出しているのは、そのカテゴリとの親和性が高く、オーディエンスから信頼を得ているクリエイターであることが少なくありません。
フォロワー数だけで判断し、オーディエンスとの相性を見誤ることは、初期フェーズで最もコストの高い失敗の一つだと考えています。
5つ目は、「初期段階での商品ラインナップ拡大」です。
ブランド側としては、最初から全商品を展開したくなりますが、実際に成果につながりやすいのは、“ヒーローSKU(主力商品への集中)”戦略です。まずは1商品で市場認知を獲得し、その後にラインナップを拡張していく方が効果的です。
William August(ウィリアム・オーガスト)
Outlandish 創業者 兼 CEO
TikTok Shopの立ち上げ初期段階から米国・英国市場で事業を展開。現在は、事業全体の戦略方針の策定やグローバル展開の推進に加え、大手ブランドパートナーと連携しながら、TikTok Shopを活用した成長戦略の支援に取り組んでいる。
🔵Jason:ここまで、日本ブランドが海外市場で成果を生み出す上で直面しやすい課題について伺ってきました。では実際に、ブランドはどのようなプロセスを経て成長していくのでしょうか。
Outlandishが支援するブランドに共通する成長プロセスがあれば、初期立ち上げから成果創出までの流れを教えてください。
🟢William:現在、Outlandishが支援する多くのアジアブランドには、共通した成長プロセスがあります。
まず最初のフェーズは、「基盤設計」です。
ここでは、商品戦略、プロモーション戦略、クリエイティブ戦略、キャンペーン設計などを行います。どの商品を主力として打ち出すのか、どのような訴求がTikTok上で機能するのか、どのようなコンテンツ導線を作るのかを、この段階で整理していきます。
次のフェーズは、「認知拡大と比較検討を促進するための投資」です。
ここでは、大規模なクリエイター施策を行いながら、商品提供や投稿促進を通じて、比較検討層との接点を広げていきます。つまり、多数のクリエイターに商品を届け、コンテンツを通じてユーザーとの接点を増やしながら、「知っている商品」へと育てていく段階です。
そして3つ目のフェーズから、成長が一気に加速し始めます。
具体的には、
AOV(平均注文単価)の向上
広告ROI目標の最適化
リターゲティング施策
ブランド公式アカウントでのLIVE配信
強力なアフィリエイトネットワークとコミュニティ形成
などを組み合わせながら、成長を加速させていきます。
この段階では、広告、クリエイター、コンテンツ、コマース運営が、それぞれ独立して機能するのではなく、すべてが連動しながら成果を生み出していきます。
そして重要なのは、このプロセスのどれか一つでも欠けると、大きな成長は実現しないということです。私たちが支援してきた多くのブランドも、このプロセスを段階的に積み重ねることで成長を実現してきました。
🔵Jason:お話を伺っていると、単に施策を実施するだけでなく、それぞれを適切な順番で進めることが重要だと感じます。
そこでお伺いしたいのですが、日本ブランドが海外市場で成果を生み出すためには、コマース運営、クリエイター施策、コンテンツ戦略、広告運用をどのような順序で組み立てていくことが重要なのでしょうか。
🟢William:それぞれの施策は、異なる課題を、異なるタイミングで解決する役割を持っています。重要なのは、これらを同時に並列で行うのではなく、適切な順番で積み重ねていくことです。
その順序設計こそが、成果を左右すると考えています。
まず、コマース運営が解決するのは、“信頼できる購買体験の実現”です。
Shop運営や物流、返品対応などの基盤が整っていなければ、どれだけ認知を獲得しても成果につながりません。つまり、オペレーションは、すべての施策の土台となります。
次に、クリエイターやアフィリエイト施策が担うのは、「認知形成」と「信頼形成」、そして「比較検討」を後押しする役割です。
日本ブランドが米国市場へ参入する際、多くの場合、ブランド認知がほぼゼロの状態でのスタートになります。その中で、クリエイターはブランドへの信頼を最も早く形成できる存在です。なぜなら、“ソーシャルプルーフ(第三者による信頼形成)”を、大規模に生み出せるからです。
次に重要なのが、コンテンツ戦略です。
認知だけが拡大しても、購買につながらなければ、マーケティングコストは非常に高くなってしまいます。
コンテンツ戦略とは、「どのメッセージ」「どの切り口」「どのクリエイター」が実際に商品購入につながっているのかを分析し、再現性のある勝ちパターンを見つけていくことです。この領域では、特にデータ分析が重要になります。
そして最後に、広告は「スケール拡大」を担います。
何が成果につながるのかが見えた後、広告はその勝ちパターンを一気に拡大するための手段になります。オペレーション、クリエイター施策、コンテンツ戦略が噛み合っていない状態で広告だけを強化しても、投資効率は上がりませんが、それらが機能している状態で広告を活用すると、広告は最も強力な成長エンジンになります。
🔵Jason:日本ブランドが海外需要を検証しながら事業を拡大していく初期フェーズでは、まず何に集中することが重要なのでしょうか。
また、コミュニケーションやクリエイティブの面では、どのような戦略が有効だとお考えですか。
🟢William:海外市場で需要検証を行いながら段階的に成長を目指す場合、まず重要なのは「ヒーローSKU」です。
商品を1つに絞り、その商品に対してさまざまなクリエイティブや広告施策を試しながら、どの施策が成果につながるのかを見極めていきます。初期段階から複数の商品を同時に展開してしまうと、データが分散し、学習スピードが大きく落ちてしまいます。
実際に早く成長しているブランドほど、初期フェーズでヒーローSKU戦略を徹底しています。
そして、もう一つ重要なのが、日本ブランド特有の“見せ方”です。
日本ブランドが米国市場へ進出する際、「できるだけ米国ブランドのように見せた方が良いのではないか」と考え、日本らしさをあえて弱めようとする傾向が見られます。しかし、私たちはむしろ、“日本ブランドであること”を積極的に打ち出すべきだと考えています。
例えば、「日本で高い支持を得ているブランドであること」「日本市場で長年愛されていること」「日本の消費者に支持されていること」などを、クリエイターやアフィリエイターを通じてしっかり伝えるべきです。
米国の消費者は、「すでにどこかで評価されている商品」を“発見”したいと思っています。つまり、これはターゲティングの話ではなく、“信頼形成”の話なのです。
「日本で売上No.1のフェイスマスク」「日本の女性なら誰もが知っているクレンジング」 のような表現は、単なる米国向け広告コピーでは生み出せない、強力な信頼へのショートカットになります。
日本ブランドは、長い年月をかけてそのポジションを築いてきました。だからこそ、その価値を隠すのではなく、積極的に伝えるべきだと考えています。
🔵Jason:ここまでのお話を伺うと、海外展開にはさまざまな準備や投資が必要だと感じます。
一方で、日本ブランドの中には「自社の規模では難しいのではないか」と考える企業も少なくありません。海外市場へ挑戦する上で、企業規模はどの程度重要なのでしょうか。
🟢William:大規模なブランド事例をご紹介することが多いのは、それらのブランドが広く知られているからです。しかし実際には、中規模ブランドや新興ブランドの成功事例も数多くあります。
例えば、米国のヘアブラシブランド「Unbrush」は、US TikTok Shop初期のヒット商品となり、累計200万本以上を販売しました。その後は米国の大手小売店にも展開し、大きな成長を遂げています。
また、ある韓国のヘアケアブランドは、米国市場での認知がほぼゼロの状態からスタートしましたが、わずか数カ月で8万本以上を販売しています。
重要なのは企業規模ではありません。その商品に“発見したくなる魅力”があるかどうかです。
私たちの経験では、人が商品を購入する理由は大きく2つあります。
1つは、その商品が生活の課題を解決してくれること。もう1つは、多くの人から支持されていることです。
TikTok Shopでは、クリエイターやコンテンツを通じて、その両方を伝えることができます。まだ海外で知られていないブランドであっても、新しさや独自性があり、人々が「試してみたい」と思う商品であれば、大きなチャンスがあります。
Jason Chang(ジェイソン・チョウ)
TikTok for Business Japan, Head of Vertical- SMB & Cross Border
SMB(中小企業)およびクロスボーダービジネス領域を担当。日本企業を含むアジアブランドの海外市場展開や、TikTokを活用した越境マーケティングの支援に携わっている。
🔵Jason:ここまで、日本ブランドが海外市場で成果を生み出すための条件や成功要因について伺ってきました。
実際に海外展開を進める際、Outlandishはどのような形で伴走し、成果創出を支援しているのでしょうか。
🟢William:私たちが提供できる価値は、大きく2つあります。
1つ目は、日本国内にローカルチームを持っていることです。
日本のクライアントとは日本語で直接コミュニケーションを取りながら進行できるため、言語や時差による負担を大きく軽減できます。また、戦略から実行までの過程で、翻訳によるニュアンスのズレが起きにくい点も重要だと考えています。
2つ目は、米国市場で構築した成功パターンを、そのまま他の市場へ展開できることです。
日本ブランドが米国市場で確立した運用モデルやデータ基盤を、同じパートナー体制のまま、英国、ラテンアメリカ、EU市場などへ横展開することが可能です。このように、グローバルで蓄積した知見を活かしながら、各市場への展開を支援しています。
このように日本語で伴走しながら、米国で得た知見を他市場へ展開できることが、私たちの強みです。
🔵Jason:最後に、海外市場での成長や越境マーケティング活用を検討している日本ブランドへメッセージをお願いします。
🟢William:私から日本ブランドの皆さまにお伝えしたいのは、「今まさに、大きなチャンスの扉が開いている」ということです。
かつては、海外市場への進出には長い時間をかけたブランド構築や高額な市場調査、さらには現地での大規模なオペレーション体制が必要だと考えられていました。
しかし、今はそうではありません。適切なパートナー、適切なチャネル、そして適切な戦略があれば、日本ブランドでも、米国市場でゼロの状態からスタートし、1四半期で数十億円規模のGMVへ成長する可能性があります。実際に、私たちはそれを何度も見てきました。
米国では、ディスカバリーEコマースが今も急速な成長を続けています。
特にTikTok Shopは、その中心的な存在になりつつあります。こうした成長機会はすでに存在しており、プラットフォームの仕組みも、日本ブランドが本来持つ価値と非常に相性が良いのです。
一方で、日本のブランドは、自分たちの強みを過小評価しているケースも多いと感じています。
現在の米国市場では、「本当に品質に信頼が持てる商品」「成分や素材にこだわりがある商品」「手仕事やクラフト感、背景ストーリーを持つ商品」への関心が高まっています。
これは、まさに日本のブランドが本来強みとしてきた領域です。実際に、多くの国、とりわけ米国では、日本の商品やブランドへの注目が集まっています。
しかし、その市場機会に気づいている日本のブランドは、まだ決して多くないと感じています。
チャンスは、すでに存在しています。そして、日本のブランドには世界で十分に戦える力があると信じています。だからこそ、今こそ一歩を踏み出してほしいと思っています。