国内外での認知を獲得し、区民のシビックプライドの醸成を目的とする葛飾区のTikTok公式アカウント

10月 04, 2024
国内外での認知を獲得し、区民のシビックプライドの醸成を目的とする葛飾区のTikTok公式アカウント

自治体のTikTok公式アカウントとしては異例の240万回再生超えのコンテンツを生み出した「なんかいいよね、葛飾【公式】」


葛飾区として発信したい情報にエンターテインメント性を盛り込み、区の魅力を国内外に広く届けています。区民からの熱い支持も集めている葛飾区のTikTokでの取り組みについて、葛飾区役所 坂井 昌弘氏、島田 美星氏、株式会社ホリプロデジタルエンターテインメント(以下、ホリプロデジタル) 執行役員 久保山 裕氏、TikTok for Business Japan 明 慶輔が語り合いました。




質の高いTikTokコンテンツで葛飾区の認知を拡大


🔵TikTok for Business Japan 明(以下、明):葛飾区ではいつごろからTikTokの活用を始めましたか?開始した理由もお聞かせください。


🔴葛飾区役所 坂井氏(以下、坂井):2022年度からTikTok活用を検討し始め、2023年6月に公式アカウント「なんかいいよね、葛飾【公式】」で投稿しはじめました。

活用を検討している中で、ユーザーが若年層だけでなく30代、40代にまで広がっていることやユーザーがまだまだ拡大していることを踏まえて、マスにアプローチするプラットフォームとして大きな存在感があると思いました。

また、他のプラットフォームは、フォロワーが多くなければコンテンツの再生数が伸びにくく、なかなか情報を拡散できないという課題がありますが、TikTokは、フォロワーが多くなくてもユーザーの興味を引くコンテンツであれば、多くのユーザーへ拡散できるということを知り、これまで届けられなかった人たちに情報を届けるために活用を決めました。


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葛飾区役所 総務部 広報課シティセールス係 坂井 昌弘氏



🔵明:TikTokでは具体的にどのような取り組みをされていますか?


🔴坂井:現時点では、TikTok公式アカウントへのコンテンツ投稿をしています。今後はTikTok広告の活用も考えており、ホリプロデジタルの久保山さんにアドバイスをいただきながら、より効果的な認知獲得を目指していければと思っています。


🟢ホリプロデジタルエンターテインメント 久保山氏(以下、久保山):TikTokでは、オーガニック投稿と広告との使い分けが重要だと考えています。

葛飾区のアカウントでは、投稿後にコンテンツを分析してPDCAを回しています。それにより質の良いコンテンツの投稿の持続を目指しています。

ただ、オーガニック投稿だけでは実現しづらいこともあり、その部分を広告が担っていければと考えています。例えば、葛飾区柴又を舞台にした映画「男はつらいよ」はフランスでの人気が高いので、関連イベントの告知をフランスの方々にも届けたいと思っていますが、オーガニック投稿だけでは届きにくいのが現状です。そのため、フランスの方向けにコンテンツを制作して広告配信すれば、効率的にリーチできるのではないかと考えています。


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株式会社ホリプロデジタルエンターテインメント 執行役員 久保山 裕氏




葛飾区の魅力が広く伝わり、区民のシビックプライドを醸成


🔵明:TikTokのコンテンツは、どのような目的やテーマを設定されていますか?また、葛飾区民の方、区民以外の国内・海外の方というようにターゲットごとに使い分けていますか?


🟢久保山:葛飾区の魅力を発信することが最大のテーマですので、どちらかというと葛飾区以外にお住まいの方を対象にしています。現時点では国内がメインですが、今後は海外も狙っていきたいですね。


🔴坂井:コンテンツごとに目的を決めていますが、最も重視しているのは葛飾区の認知を獲得することです。TikTokは認知のきっかけを作る役割なので、ターゲットは区内に絞り込まず、より広域をイメージしています。

しかし、コンテンツ作りを通して区民の方々との関わりを持つことも大切にしています。撮影現場を一緒に楽しんでもらい、コンテンツのテーマとして取り上げられて良かったと感じてもらいたいです。撮影したコンテンツが多くの区外の方々に視聴され、葛飾区の魅力が広く伝わることで葛飾区のシビックプライドが醸成されることを目指しています。


🟢久保山:TikTokのコンテンツ制作において陥りやすいパターンが、特定の人だけに向けたテーマで作ってしまうことです。そうなると当事者以外にはスワイプされてしまいます。

それを回避できた事例が、葛飾区の花火大会のコンテンツです。本来の目的は葛飾区の花火大会への来場促進でしたが、単にそれだけを訴求したコンテンツでは、TikTok全体のユーザー数を考えるとスワイプされる数が圧倒的に多くなります。

そこでTikTokでも人気の「あるあるネタ」のフォーマットを使って、「デートで花火大会に行った時の失敗あるある」をコンテンツにしました。冒頭のつかみの部分に「失敗あるある」でツッコミ要素を入れつつ(大変お恥ずかしながら私が出演しています)、「スマホの電波が通じにくくなるので地図をダウンロードしておこう」「帰りの駅が混雑するので事前に電子マネーをチャージしておこう」といった花火大会で役立つTipsを盛り込みました。

区民の方はもちろん、区外の方からも共感を得られることを意識したため、より多くのユーザーに広がり、いいねや保存などエンゲージメント率が非常に高くなりました。





発信したい情報と求められている情報を合致させることが重要


🔵明:コンテンツの企画から投稿まで、どのようなフローでTikTokを運用されていますか?その際、具体的な数値目標を設定されていますか?


🔴坂井:区で開催されているイベントなどは、職員が取材に行き、撮影したものをすぐに投稿していますが、戦略的に取り組むコンテンツについては、ホリプロデジタルに企画から投稿まですべての段階に携わっていただいています。

観光や伝統産業などの事前に決めてある複数のテーマからピックアップしたものを、毎月の定例会で企画を提案してもらい、その中で実現できそうな案を具体的に詰めていっています。撮影はホリプロデジタルが行いますが、撮影現場で信頼関係が築けるように、区の職員も現場に立ち会うようにしています。

定例会議では、前月のコンテンツの分析結果を共有していただき、次のコンテンツ制作に活かしています。先程ご紹介した花火大会のコンテンツは、最初は単純に集客を促進したいというテーマでしたが会議を重ねる中で、注意事項やTipsを加える案や、それなら他の花火大会でも役立つものにしてはどうかといった案がでて、企画が定まっていきました。


🟢久保山:数字に縛られすぎないようにするために、あえて具体的な数値目標は設定していません。ただ、自治体のTikTokアカウントではなかなか到達しづらい「100万回再生をオーガニック投稿だけで達成したい」という目標は掲げていました。それを今年6月に早々と達成してしまったので、今は「再現性を高めて何度も達成する」という新たな目標があります。

そのためにも前月の投稿への振り返りは、かなり時間をかけてじっくり取り組んでいます。だからこそきちんとPDCAが回り、葛飾区が発信したい内容と世間が求めている内容が合致したコンテンツが届けられているのではないでしょうか。




プロが持つノウハウと外部性を取り入れることが成功の鍵


🔵明:ホリプロデジタルはどのような役割を担い、どのようなメリットを提供してくれましたか?


🔴坂井:プロに相談することと外部性を取り入れることを重要と考えています。

区が推したいことや目指す方向をより多くの人に伝えて理解してもらうために、エンターテインメントの要素を取り入れるのは有効な手段です。デジタルプラットフォームのような目まぐるしくトレンドが変わる環境でコンテンツを公開する時には、何が共感を呼ぶかという仮説検証をし、時流を追っているプロに相談すべきだと思っています。

また、外部性で言うと、区の中では当たり前で見過ごしていることでも、区の外の方々から見れば魅力的なものがたくさんあるのではないかと思っています。外からの新鮮な視点から資源を発掘し、新たな区の魅力としてエンターテインメントの枠に収めてくれるのはプロだからこそできる仕事です。

そして何より、私がホリプロデジタルと取り組んで良かったと思うのは、一つひとつの現場を大事にしてくれるところです。

撮影の際は区内の方々の生活の場に立ち入ることになります。撮影自体を楽しい思い出として残してもらうためにも、魅力をより引き出すためにも、現場でのコミュニケーションがとても重要になります。久保山さんたちは、常に熱意を持って現場に臨まれており、また、撮影に関わってくださった方々へのリスペクトも感じられます。


🟣葛飾区役所 島田氏(以下、島田):私はTikTok担当になるまで「葛飾区には魅力的な要素が少ない」と思い込んでいました。でも、久保山さん達からの企画の提案を受け、撮影に同行するたび新しい魅力に気づかされています。外部の違った視点から見ると、葛飾区には魅力的な要素がまだまだたくさんあり、それをTikTokの撮影を通じて知るという経験ができました。


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葛飾区役所 総務部 広報課シティセールス係 島田 美星氏




コンプライアンスの遵守とエンターテインメント性の両立を実現


🔵明:自治体のコンテンツの場合、エンターテインメント性をどこまで盛り込むか、その匙加減が重要だと思いますが、何か気をつけていることはありますか?


🟢久保山:当社はSNSやデジタルプラットフォームに強いタレントのマネジメントを行っている会社ですので、タレントのイメージに合ったプラットフォームの活用方法やコンテンツを伸ばすためのノウハウを持っています。そういう面で、エンターテインメント性のあるTikTok活用は得意分野です。

もちろん、タレントと自治体では発信する情報の性質が異なりますので、葛飾区のコンテンツとしてふさわしい内容であることと、コンプライアンスの遵守とエンターテインメント性の両立を意識しています。そのために、まずユーザーの目線に立って、コンテンツの内容がユーザーにとって有益な情報になっているかを常に考えています。

ありがたいことに葛飾区の場合、比較的攻めた内容の企画でもチャレンジさせてくれます。何事も柔軟に捉えていただけるので、それが結果につながっている大きな要因だと思います。


🔴坂井:最初のうちは攻めの姿勢で取り組んだ方が注目を集めやすいですし、その姿勢こそが価値につながると考えています。葛飾区には伝統工芸や観光資源など価値あるものがたくさんありますが、特に若年層からは「遊びに行く場所」というイメージを持たれていないのが現状です。だからこそ、認知してもらわなければ始まりません。

コンプライアンスについては、区役所内で複数の担当者がチェックすることでクリアし、なるべく攻めていきたいです。


🔵明:TikTokでは常に新しいトレンドが生まれ、様々な方法で活用されています。最新のトレンドや効果的な活用方法は、どのようにして情報を収集していますか?


🟢久保山:やはりTikTokを見ることが第一なので、毎日欠かさず時間を確保して見ていますが、ただ見ているだけでなく、「なぜこのコンテンツはバズっているのか」「このトレンドはどのように広がっているのか」をしっかり分析しています。また、社内でも週1回、トレンドや面白かったネタなどの情報を共有し、成功要因について議論する場を設けています。

それが活かされた事例として、葛飾区のたわしを取り上げたコンテンツ「棕櫚(しゅろ)たわしの作り方」があります。このコンテンツは、企画の段階で「どうやったら、たわしを面白く紹介できるのか」「どのフォーマットを使えば、たわしの魅力が伝わるのか」を徹底的に議論し、その中で「たわしを作る時の音の心地良さ」に着目しました。TikTokはサウンドオンで視聴するユーザーが多いため、職人が一つずつ手作りしている時の音を活かしたASMR動画に仕上げました。





コメント欄と撮影現場で生まれた、区民との新たなコミュニティ


🔵明:TikTokの活用によって、どんな成果が得られましたか?


🟣島田:葛飾区がTikTokをやっていること自体に驚かれることが多いですが、やはり「棕櫚たわしの作り方」が240万回再生を突破したことへの反響が大きく、多くの区民の方から「TikTokの動画を見ました」「凄い人気の動画を作っていますね」と話しかけられるようになりました。


🔴坂井:240万回再生に到達したことで、テレビやラジオ、ローカルのメディアなどから取材依頼が殺到しました。他の自治体からの問い合わせも多く、TikTok運用や外部委託の仕方を参考にしたいという声をいただいています。

そして最も印象的な成果としては、TikTokのコメント欄が葛飾区民と区外の方とのコミュニケーションの場になっていることでしょうか。基本的に葛飾区はコメントへの返信をしない方針ですが、その代わりに区内の視聴者のみなさんが有益な情報をコメントで返してくれています。例えば、「棕櫚たわしの作り方」のコンテンツでは、「そのたわしはどこで販売していますか?」というコメントに、実際にたわしを販売しているお店の方が回答してくれたり、「車のホイールを洗う時に便利ですよ」とたわしの愛用者がコメントを入れてくれたり。


🟢久保山:コメント欄がコミュニティとして機能することがTikTokの魅力の一つで、これは他のプラットフォームでは類を見ない現象です。コメント欄でユーザー同士が教え合い、さらに別のユーザーも参加して一緒に盛り上がることができる、最もエンゲージメントの高いプラットフォームだと感じています。


🟣島田:TikTokのコンテンツは、ホリプロデジタルだけでなく、職員が撮影するケースもあって、どちらの現場も区民とのコミュニケーションの場になっています。TikTokによって生まれたオンラインとオフラインの両方でのつながりは、今までにない新たな価値ではないでしょうか。


🟢久保山:葛飾区のTikTokには、人情味溢れる葛飾区らしさが滲み出ています。また、「葛飾区民で良かった」といったコメントを見ると、TikTokを通じて区民のシビックプライドの醸成にも繋がっていることを実感できます。


🔴坂井:コメント欄については、今後、もう少し工夫していきたいです。「コメントください」とダイレクトに伝えるのではなく、自然にコメントしたくなるようなギミックを使えるようになりたいですね。




TikTokの“越境していく力”によって世界に誇れる葛飾区へ


🔵明:今後、TikTokをどのように活用していきたいとお考えですか?


🔴坂井:TikTokは、フォロワーの数や過去の実績に捉われなくても、コンテンツに魅力があれば注目を集めて広がっていく可能性があるところが最大の価値だと考えています。

「棕櫚たわしの作り方」コンテンツのように、伝統工芸を丁寧に撮影した動画がASMRの効果によって何百万回もの再生につながり、さらに海外へと波及したことで新たな価値として注目されるようになりました。

様々な国や地域の人々に情報を届けられるTikTokの“越境していく力”によって、葛飾区の魅力がより多くの人に発見されるよう、切り口や見せ方を工夫したいと思っています。


🟢久保山:葛飾区のパートナーとして成し遂げたいことは、「自治体のTikTokといえば葛飾区」と言われる段階まで押し上げることです。

葛飾区には本当に「いいもの」「いい場所」「いい人」がたくさん揃っているので、国内はもちろん世界に誇れる自治体として、しっかり海外に向けても発信していきたいですね。


🔴坂井:将来的には定住人口や関係人口を増やすことにつなげたいですが、まずは、その前段階として葛飾区を認知してもらうことが大事。認知を獲得するために重要な役割を果たすのがTikTokの拡散力だと考えています。


🔵明:どうしても自治体は硬いイメージを持たれてしまいがちですが、TikTokを活用することによって、バランスよくエンターテインメント性や親近感を取り入れることができます。葛飾区は、まさにそれを体現している事例ではないでしょうか。

TikTokでコンテンツを伸ばすためにはクリエイティブが重要で、クリエイティブ制作に悩んでいる自治体が多い中、葛飾区では質の良いクリエイティブを制作するナレッジが蓄積されているなと感じています。今後は、当社のナレッジや情報をご提供するなど、私たちとの連携も強化していければと思います。


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TikTok for Business Japan, Global Business Solutions, Growth Direct, Manager, Acceleration 明 慶輔



🔴坂井:エンターテインメントと行政の情報を掛け合わせたコンテンツは、まだまだ試行錯誤の段階だと思っています。伝えるために面白さを加えるという流れは過去から脈々と受け継がれていて、例えば教育における「漫画でわかる○○」といった表現もそれに当てはまるのではないでしょうか。

行政の情報には生活していく上で重要なものもありますが、巷にあふれる情報に比べて面白味に欠けていることによって届きにくくなってしまいます。正確で不足ない情報発信はもちろん大切ですが、コンプライアンスを守りながらも関心を引く情報の届け方を探っていきたいです。


🟢久保山:重要なテーマの情報がオーガニック投稿だけでは拡散しづらい場合、広告を併用してターゲットに届けることに取り組みたいです。

オーガニック投稿で伸び悩んだコンテンツを広告で配信し、何秒目で離脱しているのか、コメントや保存はされているのかといったデータを集めて、今後のマーケティングに活用できればと思います。

やはりTikTokはエンターテインメントプラットフォームなので、「エンターテインメント×行政情報」「オーガニック投稿×広告」といった両輪のバランスが大事ですね。


🔴坂井:TikTok for Businessには、広告に詳しい立場から、「このコンテンツは広告に活用すればもっと伸びる」というコンテンツのポテンシャルを見抜いて、アドバイスをいただきたいです。


🔵明:広告については、「横型に慣れているので縦型のクリエイティブの制作が難しい」という悩みを聞くことが多々あります。今回はホリプロデジタルがサポートされているのでスムーズでしたが、当社からもより効果的なクリエイティブを制作するためのアドバイスをするなど、ホリプロデジタルとともに葛飾区のサポートができればと思います。


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